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何だか妙なおまけ付きとなった騒動は、
おまけの部分は当然のことながら、問題の工事現場で起きていた奇異なる云々に関しても
一般市民の方々へ明かすわけにはいかない“異能力”にまつわる代物。
幸いと言って良いものか、張本人の身柄は確保できたので、
もう何も起きないはずな現場には谷崎と国木田だけが居残って形ばかりのお務めを果たす運びとし。
とりあえず、件の“消えて現れたショベルカーの怪”に関しては、
『とあるセミプロの開発グループが、
無音型で安定性にも自信ありという空挺輸送機を開発製造していて、
申請も許可もなくその飛行実験を試みたのだそうで。
基本理論にやや難ありな代物だったので許可が下りないことへ業を煮やしての強行で、
降雨の中、しかも住宅地の上を夜間に飛ばすという、勝手極まりない実験飛行。
しかもしかも、微妙にまだ私有地扱いの土地で、
そちら様の重機を勝手に持ち出すという言語道断な所業だったので、
関係各位がきつい処断を下すべく調査中です。
軍警や国土運輸省系の役所からの事情聴取の方は我々が済ませておきましたが、
なにぶん、法に触れる、しかも危険なことをやりおった素人集団。
一歩間違えば何が起きていたかを重々諭され、今は大反省しており、』
凄げぇなぁ、そんなシナリオをサササッと編み出せるとは。
あ? 名探偵が口から出まかせをノンブレスでまくし立てたって?
良いのかよ、探偵社が嘘ついて、まま、それで八方丸く収まるならってか?と。
国木田が胃を痛くするような言い回しでの評を述べた女傑には
勿論無論、一片の悪気もなかったらしかったが。
それ以前の “物品が消失したが後日確認したら戻っていた”案件の方は…
勘違いだろうと丸め込む方向で、何とか決着させることと相成って。
そうしてそして、
太宰の懐ろへ落っこちて来ても何の影響も出なかった、
試しに気を失ってたフライングマンに太宰が触れても同じくだったため、
やっぱり3日経たなきゃ戻れないらしい、並行世界からやって来た中也嬢は、
とりあえず 最初の晩は “自宅”へ戻ってみることとなり。
厳密には別世界からの来訪者なのに、
オートロックも玄関の鍵も “あちら”から持って来ていたもので間に合って。
もしも弾かれたなら敦が連れ帰るつもりだったのが要らぬ世話となった途端、
なぁなぁ泊まってけよと腕をとられての、
せぇのと一気にという そりゃあ豪快に引っ張り込まれてしまい。
『いやいやいやいや、いけませんて。//////////』
そこはやっぱり女性と二人きりになる場へ泊まるわけにはいきませんと、
初心な少年が真っ赤っ赤になって頑張ったところ、
『つれないなぁ、寂しいじゃねぇか…。』
心細げに細い肩を落とし、しょんもりされては折れるしかなく。
太宰に言わせれば、そんな初歩的なことで口説かれちゃうとはねと、
つまりは初心者向けの口説で見事陥落させられた格好。
何にもしないし手も出さぬと、中也嬢の方から約束して、
1つベッドで寝ることとなって、まずはの一夜を過ごした。
“…あれ? 向こうのボクはどうしたんだろ。”
いやいやいや、
さすがにあのジェントル中也さんが年下の敦嬢相手にこういう無理強いはしなかろうて。
敦くん自身もそういう結論を出して飲み込んで、
疲れただろう、よしよしと背中を撫でてもらって あっさり寝落ちし。(…う〜む)
翌朝、とりあえず、首領へミヤコや自分が“入れ替わって”いることの報告が要るのでと、
芥川を呼び出してポートマフィアの本拠へ出向いてしまった彼女だったが、
「よお、邪魔するぜ。」
それからさして時間も経たない、就業中の武装探偵社にて。
ノックしたそのまま応えも待たずに開いたドアから姿を見せたのは、
こちらの彼とさして変わらぬ、黒帽子に黒い衣紋といういでたちの中也嬢であり。
ボトムはスカート、靴はハイヒールだったところがさすがに違ったが、
「おお、これはまた結構な美人さんじゃないか。」
医務室から出て来ていた与謝野女医が、目ざとく気付いてにこやかに声を掛けつつ歩み寄る。
以前、敦と芥川が入れ替わった折に、
向こうの知己らの姿というものも、端末に収められた写真で皆して見てはいたものの、
実物を相手にも動じないところはお流石で、
「あんた、もしかして与謝野せんせえかい?」
「ああ、そうだよ。」
「こりゃあ驚いた、別嬪さんじゃないか。
向こうのあんたも二枚目じゃああったが、
鷹揚そうながら油断がならない切れ者って感じで。」
「おやまあ。そりゃあきっとイイ女がおっかなくって予防線張ってるだけだよ。」
婀娜な女傑二人が気の合う会話を交わしている図はなかなか華やかで。
「で? 何しに来たのさ。一応敵対組織だよ、此処。」
女性には基本、物腰やさしい太宰が、
こちらのレディにだけは 何かしら感じ取れる只者ではない匂いでもあるものか、
少々冷ややかな態度で声を掛ければ。
中也嬢のほうでもそこは今更な感覚なのだろう、
別段不審でもないものか、
むしろ日頃 男の中也がするよに、鬱陶しいなと眉をやや撥ね上げて見せてから、
「ああ そうだった。ミヤコが午前のうちに戻って来たんでな。」
そうと言って背後を振り返る。
そんな所作に呼ばれて開いたままだったドアから入って来たのが、
敦にも微妙に見覚えがある、やはり黒いスーツ姿の女性で。
国木田と谷崎が不在なため
今ここに居残る顔ぶれの中だと敦のみに覚えのある “ミヤコ”さんは男性のはずだがと、
ついつい あれれェ?と小首を傾げる小虎くんへ、
「お世話をお掛けしました。」
ぺこりと頭を下げる彼女は、こちらの本来の“ミヤコ”さんであるらしい。
こちらの面々にすれば わあ真面目そうな男の子になったものだねvvと沸いていた最中に、
あのようなとんでもない事態になってしまい。
『も、もしかして私がややこしいことをしたから、中原さんまで巻き込んだのでは…。』
問題の異能者も取り押さえ、事情を知る人らに保護されて、
もしかせずともすっかりと油断していただろうに。
まさかに またぞろ並行世界へ飛ばされる被害者が出るなんてと、
青ざめていた、こちらでは“彼”だったが、
『そういう方向で案じるこたぁねぇよ。』
当該被害者たる中也嬢がにやりと笑い、
ちょっとしたアクシデントだ、それに面白れぇ展開じゃねぇか、
俺が戻るにはちょっとばかし時間がかかるらしいから、
先に戻って向こうの奴らを安心させてやってくれやと、
何とも男前な言葉を投げかけられたのが昨夜の話。
そんな彼も、ほんの数時間ほど前に時間切れになった途端、
元の世界へふんわり戻っていったそうで。
勿論、本来こちらに居た方のミヤコさんも無事に帰還しており、
お騒がせしましたというご挨拶に来たらしい。
「いやまあ、キミもとんだ巻き添えを食っただけなのだし。」
「太宰さん。」
あ・そういえば、太宰さんと この人って顔見知りらしかったなぁと、
ミヤコさんの肩書のようなものを思い起こしておれば、
そんな敦の傍にいつの間にか中也嬢が歩み寄っており。
温められた甘い花蜜の香りに ほわわっとたじろぎ気味に顔を上げれば、
「何だよ、つれないねぇ。こっちの中也へ余程に操だてしてるんだね。」
「み、みさおだて?」
意味が判らないからこそ、オウム返しにしかかったそれへ、
太宰や与謝野、ナオミがぎょっとして…女性陣はちょこっと意味深に笑んでもいたが、
こちらの面々が一斉に振り返る中、
「そんな顔しなさんなって。
居たたまれないから逃げるぞ、俺りゃあ。ミヤコ、先に帰ってな。」
「え? あ、ちょっと、中也さん?」
帽子を手套にくるまれた片手で押さえ、もう一方の手では敦の腕を引き、
それは颯爽と…窓の桟を踏み越えて出てった女丈夫であり。
ひやぁぁぁあぁぁっという敦少年の裏返った金切り声の余韻だけ残し、
あっという間に姿を消したところは、
「流石だよねぇvv」
「情熱的な略奪行為ですわねvv」
ウチの女性陣は過激な仕儀に慣れすぎてないかと、
国木田が居ればこめかみに幾筋も血管を浮かばせただろう一幕だった。
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